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大阪高等裁判所 昭和63年(う)130号 判決

主文

原判決中、被告人X、同Yに関する部分を破棄する。

被告人Xを懲役一年八月に、同Yを懲役一年二月に各処する。

原審における未決勾留日数中、被告人Xに対しては四〇日を、同Yに対しては三〇日を、それぞれ右の刑に算入する。

被告人X、同Yから押収してある大麻草四袋を没収する。

被告人Zの本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、被告人X、同Yの弁護人井上史郎及び被告人X、同Z、同Yの弁護人平田雄一共同作成の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

論旨は、いずれも被告人らを懲役二年または懲役一年六月の実刑に処した原判決の量刑不当を主張し、各被告人に対して刑の執行を猶予されたいというのである。

そこで、記録を調査し当審における事実取調の結果をもあわせて検討するに、本件は、被告人Zの発案により、本邦に比して格安の価格で大麻が入手できるフィリピン国マニラから多量の大麻を密輸入することを企て、被告人X及び同Yがこれに同調し、被告人Zが渡航費及び大麻購入費を負担することとして、被告人X及び同Yがマニラに渡航し(被告人Xは二回渡航)、約二、八二〇グラムの大麻を購入取得したうえ、これをアヒルの木製置物の胴体内に隠匿し、マニラ発タイ航空便の航空機に積載して大阪国際空港に到達させ、本邦内に持ち込み、神戸税関国際貨物センター出張所において、右大麻の輸入申告をしないで通関しようとしたが係員に発見されたため、その目的を遂げなかったという大麻輸入及び無許可輸入未遂の犯行であるところ、右犯行は計画的な意図のもとに遂行されたものであり、密輸入した大麻の量も約二、八二〇グラムという多量であって、その態様に照らし犯情悪質なものであること、本件犯行における被告人らの役割は、被告人Zは本件犯行を発案して大麻の購入資金など経費一切を負担し、いわば主謀者の立場にあったものであり、被告人X及び同Yはフィリピン国マニラに赴き、現地における大麻入手を担当したものであるが、入手に関しては被告人Xが同Yに比して主導的な役割を果していたものであること、被告人Z、同Xにおいては入手した大麻について、被告人らの使用分のほか余剰分があれば他に譲渡して利得しようとの意思も皆無ではなかったこと、被告人らは本件以前にも大麻吸引を反覆していたことがそれぞれ認められ、また大麻吸引によって生じる肉体的、精神的障害の程度など社会に及ぼす影響も考慮すると、被告人らの刑責は重大であって、被告人らの反省の態度、被告人Zの勤務先の雇主や被告人X及び同Yの父親が同被告人らの監督を誓約していること、被告人らには前科がないことを酌んでも、所論の如く被告人らに対し刑の執行を猶予すべき事案であるとは認め難い。そして被告人ら相互の本件犯行における前示の如き関与の程度を比較検討すると、被告人Zを懲役二年に処した原判決の量刑はやむをえないものと思料されるが、被告人Xを懲役二年、同Yを懲役一年六月に処した原判決の量刑は、その刑期において重きに過ぎたものと認められる。

よって、被告人X及び同Yに対しては、刑事訴訟法三九七条一項、三八一条により原判決中同被告人らに関する部分を破棄したうえ、同法四〇〇条但書により当裁判所において自判することとし、原判決認定の罪となるべき事実に原判示各法条(ただし併合罪処理として挙示している刑法四五条前段、四七条本文、但書、一〇条を削り、観念的競合の適条として同法五四条一項前段、一〇条を加える。後記説示参照。)を適用し、また被告人Zの本件控訴は理由がないので刑事訴訟法三九六条によりこれを棄却する(ただし原判決の適条中併合罪処理についての刑法四五条前段、四七条本文、但書、一〇条を削り、観念的競合の適条として同法五四条一項前段、一〇条を加える。)。

ところで、原判決は、被告人三名が共謀のうえ、大麻を航空便で密輸入しようと企て、フィリピン国マニラ空港発タイ航空便の航空機にアヒルの木製置物の胴体内に隠匿した大麻約二、八二〇グラムを積載して、これを大阪国際空港に到達させて本邦内に持ち込んだ原判示第一の大麻輸入罪と、神戸税関国際貨物センター出張所において、輸入貨物の検査を受けるにあたり、右大麻の輸入をする旨の申告をせず通関しようとしたが、係員に発見されたためその目的を遂げなかった原判示第二の無許可輸入未遂罪とを併合罪の関係にあるとして刑法四五条前段、四七条本文、但書を適用処断しているが、右は外国から航空機により大麻を本邦内に持ち込み、これを携帯して通関線を突破しようとして果さなかったもので、その一連の動態は、社会的見解上一個の大麻輸入行為と評価すべきものであって、刑法五四条一項前段の観念的競合の関係にあると解するのが相当である(最高裁判所第一小法廷昭和五八年一二月二一日決定最高裁判所判例集三七巻一〇号一八七八頁、同第一小法廷昭和五八年九月二九日判決同裁判例集三七巻七号一一一〇頁参照。)。そうすると、原判示第一の大麻輸入の所為と同第二の無許可輸入未遂の所為とを併合罪の関係にあるとした原判決には法令の解釈適用を誤った違法があるというべきである。しかし、右両罪を観念的競合とした場合懲役刑の処断刑の範囲は七年以下の懲役刑となるべきところ、原審は併合罪と解した結果、その処断刑は一〇年以下の懲役刑と判断したことになるものの、いずれも下限は同じであり、上限との間にかなりの幅があるところ、原判決の被告人三名に対する各量刑はむしろ下限に近い刑期であることにかんがみると、原審が観念的競合としての処断刑の範囲という認識に立っていたとすれば、異った刑が言い渡された蓋然性があったとは思料し難い。したがって右の違法は、明らかに判決に影響を及ぼすものとは認められないので、破棄の理由とはしない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 近藤暁 裁判官 梨岡輝彦 久米喜三郎)

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